ここまでくればいっそ、銀行も日銀のように、預金利息をマイナスにしてしまえばどうか、とも思うのですが、そうすると今度は預金供給が一気に冷え込み、預金が不足することになるでしょう。そのため、金利はほとんどゼロに張り付いてしまっているのです(銀行が顧客への金利をマイナスにできないこうした状況を「金利の非負制約」と呼びます)。
銀行にとって預金は、普通の事業会社における商材ですから、預金がなければ商売になりません。預金は集まりすぎても困りますが、少な過ぎればもっと困るのです。事業会社であれば、販売、仕入の調節は価格で行うことができるのですが、銀行はマネーの価格である金利が非負制約のため、ゼロ近辺で硬直し、その調節機能を失ってしまっているのが現状です。
商売は安く仕入れて、高く売ることで、利益を確保します。価格の変動性が利益を裏から支えます。ところが、金融ではマネーの価格がゼロに張り付き、その変動性が極端に縮小しています。その変動幅はコンマ以下の非常に微細なものになってしまっています。銀行はこうした極小的な金利差で収益を上げなければならないのです。
それでも多くの銀行が現在それなりの利益を確保できているのは、過去に発行されたハイクーポンの有価証券の存在と過去に計上した貸倒引当金の戻し入れ等によります。ハイクーポン債の償還と、コロナ禍による景気状況の悪化で貸倒引当金の増加は必至であり、過去のこうしたボーナスはなくなりつつあります。そうすると、銀行は近い将来、現在の針の穴を通すようなミクロな金利差で勝負しなければならなくなります。その時が銀行にとっての本当の正念場になります。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)