役員報酬と従業員賃金がともに伸びるのが望ましい姿であることはいうまでもありません。しかし、両者が共に増えるには経済全体のパイが拡大しなければなりません。日本経済は人口が減少する成熟社会に入り、GDP(国内総生産)の伸び率は極めて低調で、ゼロサム社会に入ってしまったと考えられます。

 成長のない経済において事業活動を行う企業の売上は伸びません(個別企業では当然デコボコがありますが)。そんな中で利益を伸ばすには2つの方法が考えられます。一つは海外業績の取り込みであり、もう一つは経費の削減です。利益伸長が海外業績の取り込みによるものであるならいいのですが、経費削減によるものであれば、ゼロサム社会では、どこかにしわ寄せが生じてしまいます。

 業績や株価に連動して経済全体のパイが拡大するなら、業績連動型役員報酬は非難されるべきものではありません。従業員の賃金が上昇し、生産性が上昇し、売上が増加し、利益が増え、株価が上昇し、役員報酬の増加に結び付くというのが、業績連動型報酬が描く理想的な社会の姿です。しかし、今の業績連動型報酬は従業員の賃金を削り(あるいは伸ばさず)、利益と株価を吊り上げ、役員報酬を増やしている可能性があると思われます。

 私は、経済全体が低迷状況にある中で、役員報酬が業績連動型の色彩を強めれば、役員と従業員の賃金格差が拡大して、社会の分断が進むのではないかということを、強く危惧しています。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)