今、金融界では、将来予測に基づいて、債務者の返済能力を見積もり、予防的に貸倒引当金を計上する「フォワードルッキング引当金」を採用する銀行が増えてきています。銀行には貸倒引当金の対象資産である貸出金が膨大にありますから、貸倒引当金の設定の仕方次第で損益が大きく左右されることになります。

これまでの貸倒引当金の設定は、その客観性の高さから、債務者の決算状況などの過去の実績を中心に判断してきました。過去実績もある程度考慮するのでしょうが、それを、将来予測を軸に据えるというのは、かなり思い切った変革です。フォワードルッキング引当金は会計の基本思想を体現するものといえますが、会計がこの方向性を鮮明にすることで、会計と税務の乖離が拡がることに注意する必要があります。こうした将来予測に大きく依存する会計処理は、容易に想像されるような以下のような批判を呼び起こします。

まず、将来予測は「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の世界であり、その正確性を誰も担保できません。また、予測を行うのは人間ですから、主観的判断に基づくことになり、会社によって、そして人によって異なった結果が導き出されます。そんな主観に左右される不確定な未来の予測に基づいて財務諸表を作成して、信頼性のある財務諸表といえるのだろうか、というものです。

こうした批判に対し、現代の企業会計は次のように反論します。
「上場企業の財務諸表は投資家の投資判断に資するものでなければならない。株価がその会社の将来キャッシュフローの現在価値を反映するものだとするなら、投資家は投資しようとする会社の将来キャッシュフローを予測する必要がある。したがって、財務諸表もその予測に役立つものでなくてはならず、財務諸表に将来予測を取り込むことは、投資家の投資判断に有用なはずだ。」(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)