近年の日本企業は、内部留保により蓄積されたキャッシュの使い方が課題だといわれていました。内部留保は、株主が自分のカネを投じた払込資本と会社が事業で稼ぎ出す利益剰余金から構成されます。ただ、内部留保という時、一般的に意識されるのは後者の利益剰余金であることから、ここでは利益剰余金の蓄積を内部留保として扱います。

 事業で利益を上げると、最終的にキャッシュが積み上がります。内部留保により蓄えられたキャッシュの利用方法は主として次の3つが考えられます。成長に向けた投資と株主還元、そしてまさかのために備える準備資金です。この3つはいつも同様に語られるわけではなく、局面に応じて注目度が異なります。そして、非常時にある今、準備資金としてのキャッシュに俄然注目が集まっています。

 会社は利益を上げるために組織されたものですから、蓄積されたキャッシュは会社の成長のために使う、というのが第一義です。つまり、固定資産やM&Aなどへの投資です。高度成長時代は日本経済全体が拡大し、投資機会がふんだんにあったため、キャッシュを積極的に投資に振り向け、カネの使い道に困るということはありませんでした。

 しかし、人口減少時代に突入し、経済が停滞し始めると、様相が変わります。採算に合う投資対象が見つけにくくなったのです。会社成長のための投資ができないと、利益を上げる会社は余剰キャッシュがたまる一方になります。金利が高ければまだ許されるのですが、現在のようにほとんど虫眼鏡で見なければ判別できないような金利では、利益創出という点で、会社でキャッシュを保有する意味はほとんどありません。そこで、上場企業においては株主還元の出番になります。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)