株式会社は最終的に株主財産を増加するための組織ですから、会社で使い切れないキャッシュがあれば、配当なり自社株買いで株主に還元すべきだという論理は、もっともなものです。つい先日まではこの段階にあり、上場企業では株主還元が強く求められていました。
しかるに、新型コロナウイルスで深刻化する経済不況はさらに局面を変えます。
内部留保で蓄積されたキャッシュは第一義的に投資に振り向け、それでも使い切れないキャッシュは株主に還元し、余剰なキャッシュを持つべきではないというのは、平常時における正当な株式会社論です。しかし、会社には何が起きるか分かりません。自分の力ではいかんともしがたい非常事態に襲われることがあります。たとえば、東日本大震災や今回の新型コロナウイルスの蔓延のような場合です。会社には従業員をはじめ多くのステークホールダー(利害関係者)がいるのですから、こうした非常時に遭遇しても、ある程度持ちこたえなければなりません。そうした非常時に、不可欠なのは自由に使えるキャッシュです。平常時には無駄と思われたキャッシュが非常時には最も役立つ武器となるのです。
平常時には効率経営の観点から余剰キャッシュを保有しないことが望ましいとされます。「平常時はいつまでも続かない、必ず非常時は来る」ということは頭では分かっていても、平常時が長く続くと、そのことをついつい忘れ、株主からの要請に抗しきれず、極端な効率経営に走ってしまいがちです。今回の新型コロナウイルスに伴う経済危機は、平常時においても非常時に備え、ある程度の余裕を持った経営をすることの必要性を改めて痛感させました。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)